• 雑記

浅倉南の受難

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ゲッサンで連載中のあだち充の漫画「MIX – MEISEI STORY」がアニメになったので毎週楽しみにしている。が、同じ世界線で物語のキーにもなっている伝説的青春漫画「タッチ」が茫洋とした記憶の中にあるので再履修することにした。

約一週間ほど掛けて全101話をマラソンしたのだけど、ノリが時代なりで今の時代では地上波ではとても出来ない内容だった。2019年にそぐわない価値観や男女観が散見され、特に女性諸氏には耐えかねるような炎上必至の表現がてんこもりだ。なんというか…男女の役割がハッキリしている。男は男の、女は女の領分があり、それで上手く行っていた時代だったんだろう。

意思を無視し続ける周囲の人達

さて本題。80年代ヒロインの金字塔たる浅倉南だが、こんなに不条理な要求を突きつけられる立場だったっけ?というぐらい扱いが酷い。ネタバレになるが(今更?)、彼女は子供の頃から上杉達也に想いを寄せているが、クラスメイトや友人、親に至るまで、事あるごとに出来の良い弟、上杉和也とくっつけようとする。それも問答無用に、当然のことのようにだ。

もちろん周囲に対して態度をハッキリとさせない浅倉南も悪いのだが(そもそもハッキリさせる必要があるかどうかは微妙だが)、それを差し引いてもモブ顔の周囲は一向に彼女の意向を汲み取らないし、汲み取る気もない。最終話付近になってようやく喫茶「南風」のオーナーでもある父親が「タッチャンのこと、ずっと好きだったのかい?」と聞くぐらいで、基本的に周囲は自分勝手に恋人の選定や期待、役割を浅倉南の双肩に掛け続ける。

アクのないスッキリとしたキャラクターデザインと飄々とした性格描写でスルーしてしまうが、どの人間も基本的にデリカシーがなく、言いたいことを云うし、言ってはならないことも云う頻度がヤバい。純粋に「そういう事を言うんじゃないよ」と見ながら苦笑いをしてしまったのも一度や二度ではなかった。

少しは話を聞け、新体操部

中でも浅倉南が「自分は野球部のマネージャーで、新体操部は掛け持ちだ」と口にする時はだいたい不機嫌で感情を顕にしているように、特に新体操部絡みになると不条理感がマシマシになる。

当初はヘルプで仕方がなく入部した新体操部は掛け持ちが条件だったのにも関わらず、浅倉南がその意思を主張しようが、モブ顔の新体操部の部長は強引に「ちょっとだけだから」「今回だけ試合に出よう」「あんたは新体操部の星なんだし」「これも学校のためだから」「新体操のほうが大事でしょ」と時を経るごとに増長していく。見た感じは柔らかな物言いで軽口っぽくもあるのだけど、ちゃんと見返すと「いや、お前は一体なんなの」と問い詰めたくなるぐらいだ。
目をかけている後輩も同様に、野球部に戻りたがる浅倉南に対して「マネージャーなんて自分が試合に出るわけじゃないし」と本人を目の前に中々の言葉をぶつけてくるのだ!いや、これ戦争じゃない?これ言ってしまったら戦争じゃない?!

とは云えやっぱり面白かった

全体を通して観ると上記のような浅倉南が受ける謂れのない重圧や押し付けの暴力、時代なりの価値観(野球部の練習方法やシゴキなど)に対して「おいおいw」とツッコミを入れてしまうものの、物語自体は面白かった。

よくアニメの名場面!というテレビのコーナーで引用される浅倉南が霊安室に駆けつけるシーンは、クール制とは無縁?の当時の制作体制のおかげなのか、環境音のみのたっぷりと間を保った演出で、独特の緊張感や起こってしまった絶望の描写が秀逸だった。

またあの流れを通しで観てみると「上杉和也が死んだから悲しい」だけではなく、浅倉南の想いを知っていた和也は、死ぬ前日に正式に上杉達也に恋愛の勝負を挑む。その前提があるからこそ、あのシーンは映えるのだということを知れたのは僥倖だった(似たような例でクララが立った〜!がある。あのシーンでクララが立ったのは二回目だし、その前には歩く練習もしている)。

個人的には最終話あたりの、地方予選決勝でライバルであるスラッガー新田明男が所属する須見工業高校との対戦直前に、自分に掛けられるプレッシャーや、求められる上杉和也の役割に耐えきれないということを浅倉南に告げるシーンが一番印象に残った。それまで超人じみた活躍を見せていたキャラに初期の人間味が戻ってきた感じがして好きだ。

そういえば令和になっていた

タッチについてはまだまだ語り足りないけれど(データマン佐々木の活躍や、畜生こと新田妹、”暴力監督代行”柏葉の弱点を的確に抉っていく浅倉南など)、令和の時代にタッチの記事を長々と書くわけにもいかないので(もう十分に書いていることもあるし)この辺で締めよう。

80年代の価値観が盛り込まれた名作「タッチ」。覚えてないのなら是非もう一度見てみると、色々なことに気づけるかも知れない。

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